2.出会い
「ユキちゃんは、ダメヨ。着いて行っちゃあ。お兄ちゃんの邪魔になるから」 「いやや、いやや。アタチも行くの」 「ユキ、ボクは、遊びに行くんじゃないんだよ。それに、アイススケートはものすごく危険だし、何もせずにいるだけだったら、それはそれで、氷の部屋の中だからすごく寒いんだよ」 「アタチも、スケートを、スケートやるの。お兄ちゃんだけなんて、そんなん、そんなん、ずるいわ」と、ユキは泣き出した。 母親のエリは、呆れ顔になって、困り果ててしまった。ユキが、こんな風に言い出したら並大抵のことでは、引き下がらないことはエリだけでなく、家族のみんなもよくわかっていた。 エリは思った。いずれ、ユキもリンクへ連れて行かねばならない時が来るという認識はあった。少し早いかもしれないが、もういいかと。諦め半分で、ユキもリンクへ連れていくことにした。 「しょうがないはねぇ。コーチの言うことを守って、絶対あぶないことをしないと、約束できるんだったら、連れて行ってあげるけど、守れるの」 「うん、絶対守るもん」 「本当に。約束破ったら、すぐに連れて帰るからね」 「そんなことないもん。絶対に守るんだから」という泣き顔は、すでに満面の笑顔に変わっていた。 リンクは、バスで20分くらいのところにあり、スケート教室から送迎のバスが出ていたが、その日は入会申し込みのため、エリは車で送っていくことにした。 「お兄ちゃん、今日はそういう訳だから、送っていくわね。帰りは、ユキを連れて帰ってね」 「本当、しょうがないなぁ。ユキは」
「こんにちは、海野コーチ。すいませんが、今日から、妹のユキの方もよろしくお願いします。言い聞かせていますが、言うことを聞かないようでしたら、遠慮なく私の方に言ってくださいね」 「わかりました。ユキちゃんくらいの子供は、たくさん来ていますので、ご心配なさらないでください」 「ユキちゃん、今日から、お兄ちゃん達といっしょにスケートしようね。でも、お母さんの言うように、スケートの靴はこんな風になってるし、転んだりして危ないから、私の言うことをよく聞いて頂戴ね」 「はーい」と、ユキはニコニコしながら応えた。
それから、ユキは兄の大輔の背中を追いかけて、練習を積んでいった。 ユキは、特別早く上達するわけではなかった。 でも、与えられた課題を一つ一つ完璧に、演じられるまで、妥協しなかった。例え、テストに合格しても、自分ができてないと思ったら、自分が納得いくまで練習を繰り返した。 コーチの海野も、ユキが特別な生徒だとは思わなかったが、すぐれた柔軟性、音感、体質を持っていることには気づいていた。 ユキが、ここへ来るようになって1年、海野は、いつしか彼女にバレーを習わせることができれば、おもしろいかもしれないと思うようになっていた。
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