6.世界への道
中学2年の冬、ついにその時がやってきた。 全日本ジュニアの予選から本戦へ初出場を果たした。世界でも通用する見事なレイバックスピンを演じる少女がいると噂にこそなれ、ほとんど無名といってよい京都出身のユキがいた。 全日本ジュニア本戦ショートプログラムが始まった。 数十人の参加者のなかで、ユキの順番は真ん中くらいであった。 会場も中だるみ状態で、終始会場はザワザワしていた。 しかし、ユキの順番が始まると、会場は静かになり始めた。3回転が決まると拍手の渦が会場を包み込む。フィギュアスケートを知らない人が見ても、スケーティングに対して調和のとれた手、足、姿勢の曲線美のハーモニーが、人の感性を自然と引き込んでいく。スパイラル、レイバックスピンなどの技を意識する必要は全くない。ただ、ユキのなかで、極限まで追求された形と動きと音楽のハーモニーを、何も考えずに堪能すればよい。そして、ユキの舞いはスパイラルから彼女が作り出したレイバックイナバウアで最高潮を迎える。 いきなり6位入賞を果たした。 そして、ユキのスケーティングが審査員の目にとまり、全日本強化選手に選ばれた。 当初、異例の抜擢で選抜されたユキに対する風当たりは激しかった。しかし、その冬開かれた競技会のうち、ユキが参加した大会ではほとんど10位以内に入るという実績を残してしまった。 そして、ついに、中学3年の冬、特別推薦で、ヨーロッパで開催される世界ジュニアグランプリの選抜メンバに選ばれたのであった。
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